「話数単位で選ぶ、2023年TVアニメ10選」。

といったところで2023年の「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」。

今年は「アニメのルック(見た目)は今後どうなるのか」「TVアニメを含めた映像作品、ドラマの文法が全く変わる時代が来るのかもしれない」と思いながら書いた。

1『葬送のフリーレン』15話 「厄介事の匂い」

2『サザエさん』8572話「中島くんの新婚旅行」

3『江戸前エルフ』12話 「これが私のご祭神」

4『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』10話 「ずっと迷子」

5『神無き世界のカミサマ活動』4話 「カケマクモカシコキ ミタマノオホミカミ ウツシヨヲシメシタマヒ ハジメモナクヲハリモナク テンノシチヨウクヨウニジュウハッシュクヲキヨメ チノサンジュウロクジンヲキヨメタマヘト アメツチノ ミタマノミコト キコシメセト カシコミカシコミマヲス」

6『ポーション頼みで生き延びます!』6話 「チートで軍隊潰しに行きます!」

7『好きな子がめがねを忘れた』1話 「好きな子がめがねを忘れた」

8『名探偵コナン』1089話「天才レストラン」

9『呪術廻戦』25話 「懐玉」

10『薬屋のひとりごと』4話「恫喝」

 

 

1『葬送のフリーレン』15話 「厄介事の匂い」

脚本: 鈴木智尋 コンテ:瀬口泉 演出: 浅香守生 礒川和正 瀬口泉 作画監督:瀬口泉 長坂慶太 総作画監督:長澤礼子 

瀬口泉初コンテ演出回。

話題になったダンスシーンだけでなく、各人の感情を静かに表現する映像づくりが印象に残った。

 

 

2『サザエさん』8572話「中島くんの新婚旅行」

脚本:雪室俊一 コンテ:山崎茂 演出:山崎茂  作画監督:鈴木佐智子

サザエさんの雪室先生の書く物語は、近年色々なブームがあった。ホリカワ、古いものをテーマにする温故知新シリーズ、カツオと中島のバディもの、カツオと花沢のラブコメ(気味)な話。

本作はその「カツオと中島」「カツオと花沢」の集大成のような珍奇な話だ。

中島が新婚旅行の夢を見て(何?)

花嫁が花沢さんで(何?)

それにカツオが嫉妬する(何?)

 

今年は雪室先生による花沢さん話が非常に多く、それと関係あるかは分からないが花沢さんの声優も交代となった。画も鈴木佐智子作監らしくスラっとした美しさがあってとりわけ印象に残った。

 

 

 

3『江戸前エルフ』12話 「これが私のご祭神」

  1. 脚本: ヤスカワショウゴ コンテ:安齋剛文 演出:笹原嘉文 作画監督:小川莉奈 園田尚也 牙威格斗 久保奈都美 宇佐美翔平 横山友紀 モリタユーシ 総作画監督:小田武士 細川修平

まず1話を観て驚く。ゲームに出てくるような立ち絵のCGがそのまま動いているかのような映像。しかもよく見るとゴリゴリ動かすのではなく、見せ方が巧みで、観ていて何度も「ああ、こう見せられると、自分は絵が生きているように感じるのだ」と驚いた。

 

 

自分も微妙に則っている10選のローカルガイドラインに「1話と最終話はあまり選ばない」というのがあるが、今年は色々考えていて結構選んでいて、本話数もその一つになる。

クライマックスをAパートで終えて、なんということのない日々の暮らしを描くBパートを入れた最終話が良く、選んだ。

 

4『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』10話 「ずっと迷子」

脚本:後藤みどり コンテ:梅津朋美 演出:梅津朋美  CGディレクター:大森大地 ライブCGディレクター遠藤求 作画監督・作画演出:依田佑輔 総作画監督:茶之原拓也

3DCGでシリーズアニメ(TVアニメの代替用語。2023年はまだ広まっていないように見える)が作られることも珍しくなくなったが、本話数はドラマとしての高まり、音楽との融合が素晴らしく、2Dとか3Dという垣根を感じることなく没入できた。

 


人は何によって心が動かされるのか、ドット絵でも1枚の挿絵でも文章だけでも感動はできる。何が心を動かすのか。

セルルック3DCGのドラマの到達した頂点のひとつだったと思う。

 

5『神無き世界のカミサマ活動』4話 「カケマクモカシコキ ミタマノオホミカミ ウツシヨヲシメシタマヒ ハジメモナクヲハリモナク テンノシチヨウクヨウニジュウハッシュクヲキヨメ チノサンジュウロクジンヲキヨメタマヘト アメツチノ ミタマノミコト キコシメセト カシコミカシコミマヲス」

脚本: 江嵜大兄    コンテ:末田宜史 稲葉友紀 演出:基仁志 作画監督:川本由記子 迫江沙羅 森悦史 八木元喜 𠮷田肇 髙松さや

2023年は自分の目を疑うような映像がたくさんあった。

『カミカツ』は元々観ておらず、朝起きたらこの画像がTwitterに流れてきた。

 

最初は「実写の映像を取り込んで顔は手描きで貼り付けてるんだろう」と思ったが、これがアニメの1シーンだとは全く思わなかった。本編を観てこの画が当然のようにアニメの1シーンとして使われていて、遂に「日本のアニメもここまで来たか」と感じ入った。

「ここ」に来るとは夢にも思わなかった。

 

6『ポーション頼みで生き延びます!』6話 「チートで軍隊潰しに行きます!」

脚本:伊神貴世 コンテ:麦野アイス 洪貞敏 演出:粟井重紀 作画監督:山﨑輝彦 菅原美智代 上野沙弥佳 谷口繁則 Jumondou Seoul 総作画監督菊永千里 菊池政芳 畠山元

誰かが言った。「今やアニメ化のオファーが来ていない作品は、ひとつもない」。

それが本当かどうかはさておき、本話数は主人公を慕う少年兵が自爆テロをする話数で、いくらでもマイルドなアレンジにできるはずだけど、そのままやり切った。

 

Twitterや海外の反応を見ても批判的な意見が多かったけど、思い返せば子供時代にちょっと以上に倫理観がまずい作品はいくつもあった。

本作はかわいい絵柄でコミカルにしていて、悪趣味な方向には振り切れていないと思うが今後増えていくのか、いや単になろう系のそういう作品がアニメ化されきってしまえばそれで終わりになるのか、ネット連載の悪趣味系マンガがアニメ化され始めるとまた変わるのか、私には何もわからない*1

 

7『好きな子がめがねを忘れた』1話 「好きな子がめがねを忘れた」

脚本: 八薙玉造 コンテ:横峯克昌 演出: 作画監督:内田孝行 上條円己 坂元愛里 鈴木信吾 谷圭司 福永向日葵 室井大地 

ネットでも激しく話題になった『好きめが』1話を選出。

とにかく変なことをやっている。「普通に見づらい」「違和感が強い」という感想もあるし、画の作り方、映像の作り方としておかしいというプロからの指摘もあった。

 

ただ、本作ではないが3Dでレイアウトを作っている作品の画の作り方が拙いという話もよく聞くのだが、観ているファンがそれをどこまで認識して、どのラインから拒否しはじめるのか私は分からないでいる。

本作のように決めのカットは美麗で、引きのカットや風景のカットは「変な映像」になっていても、若いファンは映像のルールを知らないから「良いもの」として認識する可能性があるのでは、そしてそれがOKになる、つまり労力をかけて整った映像になっているものよりも評価されると、映像の文法、映画の文法が変わってくる可能性もある。

これはウェブトゥーンの隆盛(かどうか本当の所私はわかっていない。ポジショントークでは?と思う時もある。マンガが縦読み横読み、あるいは読まれなくなるのか私は知らない。わからない)とも重なる話で、Vtuberのように3Dモデルが動いていればそれでOKとする、AI作成のプロから見たら歪な映像がOKと言われる時代が来るかもしれない。その時何が求められ、何が古典として残るのか全くわからない。

ので、選出した。

私は、残る映像、古典になる映像というものはある程度洗練されていて、時間の経過や複数回の鑑賞に堪えうるものという認識を持っていたが、その前提が大きく崩れるかもしれないと今年思うことがあった。

 

8『名探偵コナン』1089話「天才レストラン」

脚本:浦沢義雄 コンテ:加瀬充子 演出:吉村あきら 作画監督:津吹明日香 牛ノ濱由惟 長野まりえ

毎回浦沢義雄脚本回はネットでも話題になる「カオス回」。

ここ数年、注目される回ということもあり、スタッフも力を入れていることが伺える。「脚本の奇想天外さに負けない強い映像をぶつけてくる」というスタイルが恒例で、今回は鈴木清順を連想するような、謎めいた非現実的な映像になっていることに強い印象を受けた。

「奇妙な味」のする短編のようにもなっていて映像作品として素晴らしい一本ではあるけども、そもそもコナンの好感度が下がっているようにも感じられてこれでいいのかどうか、それもちょっと不思議。来年はどうなるだろうか。

 

 

9『呪術廻戦』25話 「懐玉」

脚本:瀬古浩司 コンテ:    御所園翔太 演出: 御所園翔太 作画監督:奥田哲平 矢島陽介 中山智代 三谷高史 総作画監督:小磯沙矢香

『呪術廻戦』2期は待望の御所園監督シリーズとなったが、毎回物凄いアニメーションで間違いなく歴史に残るシリーズになったと思う。今後クリエイターが色々な方向に進んでいく中でそれぞれ必ず振り返られるような作品。『ヤマノススメ』よりもその色合いはもっと強いかもしれない。

選出は2期の1話。表現として振り切れた話数は他にあるが、映像としての完成度、原作からの補完の良さで選んだ。

本当は一つひとつの話数に間違いなく将来何か新しいジャンル、スタイルの太い根っこになり得るものがあるのだけど、それを1話選ぶことにより他の話数を選べなくなることが奇妙に思えた。なので、いくらかは想像の枠の中にあって、整った、従来の映像の文法を踏襲している1話を選んだ。

 

上に見たように、手描きアニメに留まらず来年も様々なスタイルの映像が出てくると思うが、映像の歴史が積み上げてきた「見やすさ」、人への伝わりやすさを備えたもの、「洗練された」映像こそが、やはり古典になるかどうかの「軸」だと思う。少なくとも2023年末の時点では。

ところで『呪術廻戦』2期の40話 「霹靂」41話「霹靂-弐-」で「映像は凄いが演出がない」「映像は凄いが心に残らない」などという感想をいくつか目にした。

私も以前そういう風に思っていたのであまり作画MAD的なアニメーションに興奮することはなかった。

だけど、そうではなくもしかすると映像の枠組自体が大きく変わる瞬間にいるのかもしれない。映画やマンガ、テレビドラマがベースでなく、ゲームやPV、ショートムービーの映像が身体の基礎になっている世代がそういう変化を起こすかもしれない。いや、起こさないかもしれない。私には何も分からない。分からないので9と10を選んだ。

 

10『薬屋のひとりごと』4話「恫喝」

脚本: 柿原優子 コンテ:ちな 演出: ちな 作画監督:もああん 総作画監督:中谷友紀子

『呪術廻戦』で書きたいことを書いてしまったが、この話数は「炎上」的な話数でもあった。

togetter.com

私の意見は当時ツイートして少し参照されたようだ。

言い直すと「作画の簡略化は観客の要望、テクノロジーの発達によって消えていくかもしれないが、どんな映像、ルックを良しとするかわからないし、短期的に人気を得てもすぐ飽きて廃れたりと揺り戻しや試行錯誤があるだろう。そして、本件はここで議論されたような『様式として許された簡略化』には当たらない。演出の意図として偉い人の目線を見えないようにしているので、仮に描きこまれるとしても最後の最後」となる。

 

 

何よりこの話数は美しい。原作のコミカライズから持ってきた、猫猫が何度も部屋の外に放り出されるコミカルなシークエンス。日々の積み重ねの中で一進一退する治療、少しずつ増える猫猫の賛同者、「問題→解決」の一直線ではない流れが、医療の道、生きることであることが丹念に描かれる。

 

日常は、毎日は同じようでいて、同じではない。窓を開けて日差しを受け、夜になれば窓を閉める。一見なんということのない所作から感興を得ることができる、しかもそれをアニメーションで表現できる。アニメになって絵として描かれることで、改めて普段気にも止めない動作や自然の揺らぎに意識が向く。

ずっとこういうものこそが人の心に残り、古典となり得ると思ってきた。

そうならないかも、というのが今の心境だ。

 

今年はまだ従来の映像表現が存続するだろうという気分でいるけども、ある時若い波が押し寄せて、古いファンの声が消え去り、今までの作品はどれもこれもひどく古臭いものとされる日が来るかもしれない。

今年ではなかったが来年かもしれない。

まだ元気で暮らせそうだから来年もそんな風に考えて映像を観ていきたい。



 

*1:ちなみに私が定期的にチェックしてBPO青少年委員会にも投書はなかったようだ。いずれにしても「ゴールデンタイム外であること」「直接的に陰惨な描写でないこと」のため議論が進むこともないだろう。