話数単位で選ぶ、2022年TVアニメ10選



といったところで2022年の「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」。

1『シャインポスト』7話 「伊藤紅葉は《戻らない》」

2『サザエさん』8374話「姉さんのイメチェン」

3『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』5話「DIYって、どこかに・いばしょが・ようやく」

4『ONEPIECE』1015話「麦わらのルフィ 海賊王になる男」

5『明日ちゃんのセーラー服』7話「聴かせてください」

6『ぼっち・ざ・ろっく』3話 「馳せサンズ」

7『異世界おじさん』3話「叔父がいるなら叔母もいるのです、わ」

8『チェンソーマン』8話「銃声」

9『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』97話「神の涙」

10『ヤマノススメ Next Summit』7話「クラスメイトと山登り!」

 

 

 

1『シャインポスト』7話 「伊藤紅葉は《戻らない》」

脚本:樋口達人 コンテ:及川啓 演出:宅野誠起 作画監督:小畑賢 冨永一仁 芝田千紗 佐賀野桜子 泉坂つかさ

主人公青天国春の秘密が明らかになる回。嘘を見抜く能力がドラマの伏線的な役割を発揮して今までの視点が一気に変わるダイナミックさと春のリアルな「とぼけ方」に強い印象を覚えた。

 

2『サザエさん』8374話「姉さんのイメチェン」

脚本:スギタクミ コンテ:牛草健 演出:牛草健  作画監督:本田奈留美

最近は新しいスタッフが徐々に目立ってくるサザエさんであるがこの話数はかなりのサプライズ。

サザエさんの絵柄に則りつつ、かなり現代感のあるアレンジが鮮烈。どうせお団子が増えるとかだろうという予測を裏切る快作。

作監の本田さんは原画でよく見かけるのでこれからも楽しみだ。ちなみにサザエさんは今でも描き手によってスタイルが違っていて時にかなりスラッと描かれたりしているようだ。原作で「色黒でずんどう」と書かれているので、そこを飛び越えたあたりも興味深い。

 

3『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』5話「DIYって、どこかに・いばしょが・ようやく」

脚本: 筆安一幸 コンテ:伊礼えり 演出: 伊礼えり 作画監督:新井博慧

絵が動く。とにかく活き活きとユーモアをもって動く。今年はアニメーターがのびのびと描くような作品が複数生まれ、かつ人気を博すことが多く少し時代の変化を感じた。

本作は特に豊かな動きと優しい物語に魅了されるもので一話選出に大晦日までかかったが個人的な画の好みで本話数を選んだ。

そう、この文章を書いてる時点で話数が決まってないのであるがどれかを選ぶことは正直自分の力ではできそうにない。正直選べない。

 

4『ONEPIECE』1015話「麦わらのルフィ 海賊王になる男」

脚本:山崎亮 コンテ:石谷恵 演出:石谷恵  作画監督:森佳祐 伊藤公崇 小島崇史 山本拓美 総作画監督:市川慶一 松田翠

ワンピースを普段追いかけていないところに高い評判が届いたので視聴。

渾身の画作りに心打たれため息が出る。

その後石谷恵さんはウタのアイキャッチも手掛け話題を読んだ。牛乳最高!



 

5『明日ちゃんのセーラー服』7話「聴かせてください」

脚本:山崎莉乃 コンテ:Moaang 演出:Moaang   作画監督:川上大志

ラス1、最終話のダンス場面にも強く惹かれたし、他の話数もどれもこれもよく、選出に迷い続けて大晦日まで来てしまったが、悩んでこれを選出。正直選べない。

ちょっと『花とアリス殺人事件』を思い出したのだけど、そのせいもあってか、本編の別フレームから青春を切り取ったように思えた。



6『ぼっち・ざ・ろっく』3話 「馳せサンズ」

脚本:吉田恵里香 コンテ:山本ゆうすけ 演出:山本ゆうすけ  作画監督:中村楓

本作も悩み続けて選択できぬまま大晦日へ。

破天荒さと話の面白さの調和で選出。正直選べない。

ところで吉田恵里香シリーズ構成は、まさにこれこそがシリーズ構成だ!と言いたくなるような素晴らしい読み込みと再構成だった。

原作ものの未来は明るいと強く思えた。




7『異世界おじさん』3話「叔父がいるなら叔母もいるのです、わ」

脚本:猪原健太 コンテ:岩畑剛一 演出:古賀一臣  作画監督:桜井このみ 坂井久太

毎週「ほとんさん良かったですね…」と呟いていたらあっという間にシリーズが終わったが、3話の画の良さ、原作コマからの見事な跳躍が印象に残ったので選出。

……と、早いうちに書いていたのだが遂に年内には終わらないまま殆ど死んでいる先生のTwitterも更新がない。



8『チェンソーマン』8話 「銃声」

脚本:瀬古浩司 コンテ:御所園翔太 演出:御所園翔太 佐藤威  作画監督:新沼拓也 野田友美 伊藤公崇 中山智代  総作画監督:山崎爽太 杉山和隆 駿

同郷の偉人藤本タツキの人気作のアニメ化(同郷の偉人言いたい病)。

 

AmazonランキングでBlu-rayの売れ行きが良くないとは聞くが、ジャンプ読者の若年層はそんなに円盤とか買わなそうなイメージもあるし、Amazon以外の購入が多いのではという話も聴く。批判めいた話は出てくるが話題作に風見鶏になるのはメディアの性格なので本当のところは分からない。三谷幸喜大河ドラマ新選組!」も当時は視聴率が低いという理由でよく叩かれていた。否定的なファンが多ければ叩く記事のほうが売れるという当たり前の理屈なんだろう。

 

チェンソーマン」アニメ化について、当初から作品の質よりも、作る側がファンの動態を把握できているのか、ずっと気になっていた。

海外ファンはなんとなくサイバーパンクエッジランナーズとかのファンとかぶるというかアクションバイオレンスゴアみたいなところでウケてそうなイメージがあったが、日本国内だともっと重層的で複雑なイメージがあって、スタッフはこれを本当に把握できているのだろうか、普通に生きて忙しい仕事をこなしながらそこまでこの深い森に分け入ることができるのだろうか、と思っていたら賛否両論(今はどちらかというと否よりだろうか)となったのでやっぱりな感はある。「チェンソーマン」のどこが好きか、アクションだったり展開だったりキャラの関係性だったり、独特のギャグだったり、それぞれがどれぐらい刺さるかは、皆かなりバラバラなのではないかという話です。

フリクリ』のどこがウケていたか、に近いタイプの問いだと思っている。私も楽しんで観たし、熱いファンの気持ちもわかるような気がするが、総体としてあの熱量がどのようなメカニズムなのかはわからない。

チェンソーマン』ではバイオレンスに加えて、映画作品が底流にあるせいで生まれる「他のマンガと違う感」があるようにも見える。

また、映画作品のパロディオマージュ引用がどれくらいあるか詳しく調べてはいないが、作者の好きなそれぞれ出自も背景も違う作品からの引用のごった煮が若い読者の琴線にそれぞれ触れて、読者の嗜好や興味属性に応じて感じ入る部分が違うのではないか、そのせいでファンの重層性が生まれるのではないか、

それは例えば映画等を縦横無尽に引用したトキワ荘世代の作家とそれに強い影響を受けた子供たちのようなものだったのではないか、手塚治虫の影響を語る直撃世代の作家は、ある時はミュージカルシーンにショウの華麗さ、ロックが車を駆るシーンにダイナミックさを、あるいは動物の妖艶な魅力に惹かれた人、SFマインドに影響を受けた者、など様々な波紋が次の世代に広がっていって(そのうちのいくつかは大人の視点からすると「〇〇の焼き直しだ」「もうとっくにあるよ」と思えるものだったかもしれない)その全容を掴むこともなかなか大変なはずだけど、研究も語りも充実しているので把握はおおむねされているようだ。しかし、まだ若い藤本タツキくんの下に集うもっと若いファンたちは、まるでフェスの観客のようにそれぞれが好きな部分に熱狂して総体が作られているのではないですか、だからフェスに来た人向けに曲数の限られたプレイリストを作るとしたら、全体と細部がきちっと見えてないとできんのではないですか、とにかほ市沖(旧仁賀保町沖)で考えたりしました。

ファンの重層性なんかないよ!みんなが望むものはたった1つでブレとかないよ!と科学的に明らかになったらそれでおしまいです。

 

そんな思いの中でこの回を選出したのは一本の映像として調和があったと思えたからです。「映画」の中の23分ほどを抽出したと言っても良いように思える。そうでない回も散見されたがこのへんは相当微妙な匙加減に思える。アニメーターが腕を振るう作品は基本的にはそうなりにくいと感じている。一つのシーン、シークエンスとしては見事でも全体がそれほど調和しないことも多い。だけど、そうであっても楽しめるのが映像の面白さかなとは思う。

 

コンテ段階あたりで決まるのかといえば最終的な編集に拠るところが大きいようにも思えるが、そもそもアニメ演出家一般が「映画」を志向しているようには常日頃から全く思えない。

作り手の言う「映画を目指した」の「映画」は「映画っぽさ(映画と言われて思い浮かぶイメージを抽出したようなもの)」だったとは思う。私の言うのは吉田玲子の書く脚本のような「映画」だ。新海誠作品なら『すずめの戸締まり』が一番映画だし『100日間生きたワニ』も「映画」だと思う。面白いかどうかは判断基準ではない。

 

9『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』97話「神の涙」

脚本:千葉克彦 コンテ:田中裕太 演出:田中裕太 作画監督:米本奈苗 村上直紀 増田誠治 総作画監督:為我井克美

今年はないかなと思っていたらやっぱりあった田中裕太回。

丹念に情感を重ねていく回想シーン、そしてラストカットの鮮烈な驚きのままに全体が閉じられる。

アニメオリジナルの演出なんだけど、広く共感されたように観測された。納得されうる表現とそうでないものの差は一体どこにあるのか、考え込んでしまった。ここでは回想の積み重ね方の丁寧さがあってこそと考えている。



10『ヤマノススメ Next Summit』7話「クラスメイトと山登り!」

脚本:ちな コンテ:ちな 演出:ちな 作画監督:ちな 総作画監督松尾祐輔

凄く期待した一本。細田守TVシリーズのように高い気品のある作品が来るのではと思っていたが、全く違うタイプの作品で、強く強く印象に残った。

実写寄りの背景と、生き生きと動き、ときにマンガチックでさえあるアニメーションとの不思議で魅力的な融合。ちなさんがこういう表現を志向していたのが納得しつつも驚いた。今までの作品からなんとなく、映像表現、演出的な画のほうに発展していくのかと思っていた。これに類するアニメーションが他にあるだろうか。あったら観てみたい。

今風の撮影がキラキラしたアニメとも、アニメーターが活き活きと自在に芝居させるアニメーション(『DIY』や『王様ランキング』などを想定)とも違う、ちょっと個人制作のような風も漂う魅力的な一本になったと思う。

ちな様のフィルモグラフィの中の特異点になるのか、それとも重要な通過点になるのか、私の生きている限り見続けていきたい。

 

 

今年は国内のアニメ映画はおおむね観られたがTVアニメはやはりシリーズに入り込むまでが時間かかる性分なので数をこなすことはできなかった。

10選以外のシリーズでも未見のものも含めて意欲的な作品元気な作品などが目立った。

上にも書いたように、いわゆる「クオリティ重視」とネット民(引用リツイートで正義を振るうような人を想定)に言われるような、コンポジットでキラキラに飾るのではない方向の画づくりが多々見られてきていた。『DIY』や『ヤマノススメ』はアニメーターが好むような画づくりだと思うけど、それとは違う新味のあるアニメーションがなんか見られるような気がしている。

ゲーム世代、スマホ世代の心にビシッと入るような、私のような世代からすると異形に見えるかもしれない映像表現が出てくるような気がしている。