話数単位で選ぶ、2017年TVアニメ10選

今年も参加。

話数単位で選ぶ、2017年TVアニメ10選

3月のライオン』26話「Chapter.52 てんとう虫の木(2)」「Chapter.53 てんとう虫の木(3)」

リトルウィッチアカデミア』8話「眠れる夢のスーシィ」

亜人ちゃんは語りたい』11話「 亜人ちゃんは支えたい」

正解するカド』1話『 ヤハクィザシュニナ』

エロマンガ先生』8話『夢見る紗霧と夏花火』」

  『魔法つかいプリキュア!』49話「さよなら…魔法つかい!奇跡の魔法よ、もう一度!

ネト充のススメ』6話「恥ずか死んじゃいます!」

アニメガタリズ』11話「共ニ語リシ光輝ノ裏切リ」

ヘボット!』第45話「ギザギザ・ザ・ネジ山」

サザエさん』2443話 No.7652「主婦のシェフ」

 

 

 

 

 

 

ルール
・2017年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。 

3月のライオン』26話「Chapter.52 てんとう虫の木(2)」「Chapter.53 てんとう虫の木(3)」脚本:木澤行人 コンテ:黒沢守 演出:岡田堅二朗

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原作でも話題になったいじめ回。終わってからハー…とため息をつくような緊迫感のあるよい回だったと思う。アバンの画角からのOP入りで痺れた。

原作の監修をしている先崎学先生がコラムで、ちょっと書きにくそうにしているのが印象に残っている。普段は展開にあわせて感想を言っていたのでなおさら。

正直言うと最初はなんで将棋と関係ないいじめを扱ったのかわからなかったが、今ならわかる。

本作は桐山零という平均よりもはるかに強い棋士が、強い相手だけでなく弱い相手(松永・安井)にも向き合う物語だ。だが将棋は一対一であってここで描かれるいじめとは構造が違う。

個人をいじめる集団を目の当たりにした桐山は成長する。それは盤面を見るだけでは出てこない物語だ。

ここであかりのいじめに立ち会うことは棋士桐山零にとっても大切な過程のはずだ。

ところで二海堂の物語に滑川がからんでくると思うとそれだけでこの数年は切ない。

 

 

リトルウィッチアカデミア』8話「眠れる夢のスーシィ」

脚本:うえのきみこ コンテ:今石洋之 演出:中園真登

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楽しく観たシリーズ。その中でも夢の中に入る展開、イメージの豊かさが印象に残った。

もう少し各キャラの掘り下げ回が欲しいとも思ったが、2クールだと適切なバランスだったなとも思う。惜しむらくはサブキャラ同士がもっと絡んで、その関係性の中からもアッコの個性が浮き上がってくるとなおよかったなと、ないものねだりしたくなる。

ところで『君の名は。』『シン・ゴジラ』パロディを本回で初めて観たので、鮮烈な驚きだった。

 

10選の途中ですが『亜人ちゃん』11話を語りたいをお送りいたします。

亜人ちゃんは語りたい』11話「 亜人ちゃんは支えたい」

脚本:吉岡たかを コンテ:石井俊匡 演出:石井俊匡

原作からの飛躍が素晴らしかった回。

 主人公高橋が生徒である亜人たちとの接し方に悩み、ひかりたちの成長によって彼の悩みの氷は溶けていく。

 

原作とはレイアウトや配置が異なり作り手の意欲の強さを感じ胸が熱くなった。

おおよそのストーリーは次のとおり。

高橋が教頭から亜人との接し方について疑問を投げかけられ、彼は迷う。その一方で生徒たちは自分なりにコミュニケーションを取ろうと試みていて、その姿を見て大人たちは最初の問いが誤っていたことに気づく。

 

冒頭から主人公高橋の周りは影が差している、ただこの時点で本人の悩みは顕在化していない。

教頭から話しかけられるシーンまわりは、狭く窮屈で、行き詰まりや閉塞感を感じさせる。原作のコマ割りとは異なったアニメ独自の演出だ。

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中盤は生徒たちのふれあいで青空が基調、後半には夕景とコントラストも印象的。

 

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教頭は高橋の仕事を認め、高橋が光の先に見るのは生徒たちだ。

高橋と話す前に教頭もまた光の中の生徒たちを見ている。この1カットがあるおかげで教頭はただの敵役ではないことが明確に示される。

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冒頭を振り返ると、高橋も教頭も「光」に気づいていない。だからこそ暗く狭い画面作りでなければその対比と寓意が生きてこない。

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冒頭、藻の澱んでいたプールは綺麗に掃除され、夏が始まる。この寓意を説明する必要はあるまい。

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あるまいが言いたいので言う。心が叫びたがってるんだ(何の関係があるかと言われれば「A-1繋がりです」と答えたい)。

これは本エピソードで高橋の心が濁って解決することの寓意であると同時に、高橋が今までひかりたち亜人に対してしてきたことの寓意でもあり、この話数とシリーズ全体を表してもいる。


そしてひかりたち亜人の行く末に夏が来るのだ。丹念な対話を重ねてきた彼らの心は澄んでいる。たとえこれからまた濁り淀むとしても

今日この一瞬は光り、先へと道行きを照らしている(言うまでもないがこの一文に亜人である彼女たちの名前を織り込んだ、言いたくなったので言う)。


「いいアニメを一本観た」という満足感と調和はとても心に残った。

常に亜人の生徒に寄り添ってきた高橋が、亜人から「なにか」を受け取るというシリーズの事実的なフィナーレ回を強く推したい。

 

正解するカド』1話「ヤハクイザシュニナ」
脚本:野崎まど コンテ:渡辺正樹 演出:渡辺正

SF大作、大作洋画の始まりのように悠揚としたオープニング。最近の海外ドラマの波がついにTVアニメにも来たのか!と思ったら、途中から様相が変わり東映変身ドカーンバーンやったぜ!ENDになったので腰が抜けた。東映はオレ流で突き進むのかいう意見表明かと思いきや脚本の野崎まどの味らしい。それはさておき3DCGで出てくる作品の幅が一段と広くなったなあという印象の一本。多分3年後に振り替えると技術的に見劣りするところも出てくると思うが、それでも「何かが始まる」予感に満ちたこの1話は輝きを失わないであろう。

 

エロマンガ先生』8話『夢見る紗霧と夏花火』

脚本:伏見つかさ コンテ:若林信 演出:若林信

アニメスタイル枠(そんな枠はない)。シリーズの中でも独特の味のある8話。

この電車のシーンは観ていて「ふわーっ(水木しげる風)」と驚いて見入ってしまったがその後アニメスタイルでも取り上げられていて、うれしかった。

わたしは作画のことがあまりわからないので具体例はあげないけれど、そのほかにも、静止していても人間の髪が揺れるような儚さのあるカットが印象に残った。

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魔法つかいプリキュア!』49話「さよなら…魔法つかい!奇跡の魔法よ、もう一度!」

脚本:村山功 コンテ:三塚雅人 大塚隆史 演出:三塚雅人

プリキュアたちのその後、数年先を示した極めて意欲的な回。プリキュアはフォーマットが基本的にかなり固まっているが、継続して見ているとこういう踏み越えた回が出てきて、それがまた面白い。それと同時に少しプリキュアから一歩引いて作品と接している自分に気づいた(要はタイムラインほど熱狂しなかった)。

 

ネト充のススメ』6話「恥ずか死んじゃいます!」
脚本:井上美緒 コンテ:ちな 荒川眞嗣 演出:末澤慧
まずアニメを視聴してから原作を読み、痺れた。
原作はネットゲーム(MMO)についてかわいらしい絵柄で、ゆるやかなテンポで進む物語だった。
アニメ版は大胆にリアルの描写を抽出して、ネトゲの説明は抑えたつくりに。この作品の面白さのひとつはリアルとゲームでの姿やキャラの違いだと思うが、森子と桜井にクローズアップして(インタビューでは「トレンディドラマ風に」という話もあった)、独特の雰囲気をもったシリーズになっていた。そして安易にリアルに帰っていかないところも今日的で2017年らしいといえるかもしれない。
特に中盤の盛り上がり、抑制の効いた演出の6話を推したい。4枚目は特にPCモニタのテクスチャが印象的。

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アニメガタリズ』11話「共ニ語リシ光輝ノ裏切リ」
脚本:広田光毅 コンテ:三宅和男 演出:福元しんいち
サザエさん』も手がける広田光毅の脚本。

しょっぱなから絶妙!といった切れ味のパロディやアニメネタが出てきて楽しく見たシリーズ。このエピソードは特にメタなやりとりが面白かった。


11話冒頭、いつもと雰囲気が違うと疑念を持つ主人公に対して、「シリーズ構成が変わった?」「じゃあOPをもう一回見てみよう」と言って本当にもう1回OPを途中まで流してしまう。その後もキャラの内面を見透かすときに、仕上げ前の原画を見せたりと、アイディアが面白い。
遊びとして楽しいだけでなく、世界観を揺るがす優れたパロディが印象に残った。これは『サザエさん』ではなかなか見られないものだ。


 タイトルから違い、本編に入るとキャラデザインが古風になったりしながら徐々に画角が狭まり16:9から4:3になっていく。

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OPを巻き戻してシリーズ構成の名前を確認。主人公の内面が崩れていくところでの画面ではアニメの工程の画を見せてしまう。パロディと演出が噛み合っていて大変面白かった。流石はサザエさん脚本家である。せやろか。

 

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ヘボット!』第45話「ギザギザ・ザ・ネジ山」

脚本:山田健一 コンテ:伊藤史夫 演出:伊藤史夫

 

最初の数話を見たときはあまりに意味不明で敬遠していたが、ネットの盛り上がりを見て追いかけた。最終回までのバカ騒ぎと伏線が見事なシリーズだった。

 徐々に物語の秘密が明らかになる中盤以降も捨てがたいが、面白くするためなら何でもやる何でも拾う精神の極北を見たこの回を挙げる。

 

引用元はNHKのドキュメンタリー「宮崎駿 終わらない人」。ヘボットとは全く関係ない場面で宮崎駿「(作品を作るなら)ヘボは作りたくない」と言っただけのシーンをパロディとして用いるこの執念はなんだろうか。

 

ドキュメンタリー放映時にヘボットを連想している人はtwitterでも幾人かいたが、そのときはそれで終わり。断じてバズった場面ではない。

その後も私がヘボット放送時に、何度か画像を上げたが、反響は殆どなかった。ヘボットで検索すれば引っかかるかなくらいのものだった。

 

だからこそ、初見時の衝撃は凄まじかった。

作品を作るために何でも取り込んで前に進み続ける王蟲のような存在がクリエイターなのかもしれない。そうでないかもしれない。

 

サザエさん』No.7652「主婦のシェフ」

脚本:小林英造 演出:成川武千嘉

2017年。サザエさん、ナンとカレーを食べる。

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サザエが料理教室に通い、いつものドタバタ騒ぎをしながら、結局はいつもの料理が美味しいねというところに落ち着く。

落ち着くのだけど、これはとてもいいストーリーだ。

 

まずサザエが四コマ原作(自然食品で店員の原始人が出てくるのと寝ながら料理教室を夢想するやつ)を使いながら、料理教室に通い、サザエ流を貫きコメディを演じる。

 

そして習った料理はまさかのナンとカレー。

ナンとカレーをサザエ一家は食べたのだ。これは公式のエピソードである。

 

そしてここからが優れている。ありがちに料理教室の料理や外食を否定することなく自然に家庭料理の価値を示すところだ。流れとしては、夜遅く帰って来た波平たちに、ありあわせのものを出す。マスオと波平はその食べ慣れた味を褒めサザエとフネに感謝する。きわめてシンプルだ。

家族や主婦というデリケートな問題に踏み込まずに優雅な着地を見せている。

 

セイバーが最優のサーヴァントならエイゾーは最優のサザエ脚本家である、そう思える一作。

 同じ小林脚本の「カツオは稼ぐ男」(9/3放送、No7672)も捨てがたかったが西尾西男さんが「ナンとカレーを誰か10選に」と言っていたので渾身の力を込めて推したい。

 あと城山昇先生の本年の打率は著しく低かったがその反面作画で見どころが度々あり、座組も考えられているなあとか外野から適当な感想を持った。

 

 

 

 

 

2017年は思ったよりもTVアニメを観ることができていて、選に漏れた中でも『Just Because!』や『セントールの悩み』、『アリスと蔵六』、『DYNAMIC CHORD』、『エロマンガ先生』、『小林さんちのメイドラゴン』9話、『少女終末旅行』、『メイドインアビス』、『宝石の国』、『RE:CREATORS』などが印象に残った。
原作ものでも「原作どおり」ではなく、見事にエッセンスを抽出したり、作品世界の再現が精緻だったりと、高く飛躍した作品が目に付いていた。原作を下敷きに作家性を発揮するのとも、原作のそのまま再現に終始するのでもなく、その解釈・再構成に心打たれる作品が多かった。
ちなみに劇場作品も当たり年といわれた2016年に負けず劣らず、複数回鑑賞した作品が数本あった。そういう作品があまり多すぎても困ってしまうが心にぴったりとはまる作品が毎年1本か2本あれば、とても幸せだと思う。

はいからさんが通る 前編 紅緒、花の17歳』2回、『フェリシーと夢のトウシューズ』3回、『KING OF PRISM –PRIDE the HERO-』15回、『映画 プリキュアドリームスターズ!』2回、『この世界の片隅に』6回など。