ネットで風刺は生き残るか~宮崎駿引退ツイート問題について

 

 

 

宮崎駿の引退にまつわるツイートが、テレビで「事実」として紹介されたことで色々な考えを読んだので久しぶりにブログを書いてみる。

 

ネット社会で風刺はどうやって発表すればいいのかと考えさせられた。 

「風刺」がネットでデマ認定されるのは、紙メディアと性格が違うからなんだろうなあということ。

 

 1.あらすじ

 まとめはこれ。

※これは宮崎監督の実際の発言そのものではありません

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https://pbs.twimg.com/media/DA4OTLhV0AEXHm8.jpg

togetter.com

 

 

今回の当事者、あれっくすさんが過去にツイートしたのはこちら。

※これは宮崎監督の実際の発言そのものではありません。

 

 

宮崎駿監督は過去に何度も引退したいという発言をしているのは事実で、『風立ちぬ』の際には引退記者会見をしている。*1

 

そして今また復帰ということについて、ボジョレー・ヌーボーの毎年の評価を絡めて風刺的なジョークにしている。

www.huffingtonpost.jp

 毎年「最高!」と言われるのでネットでもよく話題になっている。

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それをテレビで、裏を取らずに事実のように紹介したため、ツイートした本人が異議を唱えたという話だ。

2.問題はどこにあるのか

最初に挙げたtogetterのまとめやコメントを見るとわかるがおおよその意見としては

・テレビ批判(テレビが裏を取らない、影響力を考えていない等)

・ツイート主批判(デマを撒いた本人なのになぜ怒っているのか)

twitterの空気に疑問(ネタツイートでも面白ければウソでもいいのか)

というところが目立つ。

テレビ批判については、たくさん事例があるし、個人的にあまり興味がないので今回は取り扱わない。テレビ番組作りは短い期間で大変な労働だと聞くのできちんと裏を取るのも難しいだろうが、それで批判されないわけでもない。ほどほどに労働環境が改善され、ほどほどに報道の公正さの改善が行われ、ほどほどに衰退していくのだろう。

 

2つ目のツイート主批判は、プロアマ問わず各所から出ていて、最初ちょっと違和感を持った。

これはデマなのか?

もう一度該当のツイートを挙げる。

※これは宮崎監督の実際の発言そのものではありません。

「見れば変だとわかる」という人もいたが、ネットに慣れていなかったり、ごく若い人なら信じてもおかしくはないと思う。

出典がないひとつのツイートは、基本的に疑わしい。前後の文脈で示されることもあるが、ネットでは「一部分が独り歩き」することは多くの人が指摘している。

 

ツイート主は、このツイートがバズって人気になった後も引っ込めていなかった。それを批判する人もいるが、本人はそれをおかしな対応だと思っていないようだ。

・デマを放置するのか

・デマではない

という二つの意見が対立している。なぜか。

それは「風刺」というジャンルの捉え方ではないだろうか。

 

3.昔からある「風刺」

紙メディアの新聞や雑誌には昔から風刺というジャンルがあった。

新聞の一コママンガがそうだ。学校で見たことのある人も多いだろう。

https://pbs.twimg.com/media/C6yf4ysU8AAAETK.jpg

https://pbs.twimg.com/media/C6yf4ysU8AAAETK.jpg

急に金持ちになった人の、お金の使い方のおかしさを指摘するものだ。「儲けやがって!」とストレートに言うよりも、鋭く読者にメッセージが伝わる。

 

文章ネタもあった。

朝日新聞でいうところの「かたえくぼ」なんかがそうだ。こんなやつ。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12938875.html

何の気なしに目に入って読んでいる人も結構多いのではないか。ペンネームもふざけた感じのものが多い。実名で書いているのは私はあんまり見たことがない。

 

今回のツイート主であるあれっくすさんのも、おそらく本人の意識として「風刺」なのだと思う。だからこそツイートでは誰の発言か分からないようにして風刺の雰囲気を出すとともに、誰が言ったかあいまいにしている。一見監督の発言にも見えるがプロデューサーの発言や伝聞としても成立することに気づくはずだ。

個人への批判ではなく、引退をほのめかす話題作りに対する「風刺」という意図なのではないか。これを「宮崎監督の発言wwwww」みたいに発表すればデマになるが。*2

 

「風刺」であることを踏まえてツイート主の発言を読み返すと、印象が変わってこないだろうか。

 

4.嘘か本当か風刺か見分けることができないからネットは大変だ。

風刺そのものが不要かどうかという議論がしたいわけではない。それはまた別の話。

ここではマスメディアであるところの新聞社が、こういった風刺を長年載せていたということだ。風刺は強い直接的な言葉より、時にずっと効果的だ。

 

今回の件も「何度も引退宣言するな!」とそのまま言うよりも、印象的だ。

嘘か本当か、デマか風刺か、そこは実に微妙だ。

少なくともひとつのツイートだけ見て判断することは基本的に無理だ。

だから原典にあたることが、ソースを確認することが、とても大事だ。

 

新聞の風刺欄も(どの新聞にも同種のコーナーが大抵ある)、今日まで残ってきた。

ただ、誤報やデマでないことを明らかにするために、マンガのかたちをとったり、コーナーを明記して、ペンネームもふざけた感じにしているのだろう。

真面目な記事の真面目な本文にはあまり混ぜ込まない。

これは風刺ですよ、という印があるから、読者は安心して風刺を楽しむことができる*3

 

だがネットになるとそうはいかない。

 

発言は意図に反して拡散される。事実も嘘も全部横並びなのは、皆さんが見てきたとおりだ。

 

4.おわりに ネットという陸に上がった、風刺という魚は生き延びるか

というわけで今まで見てきたとおり

・風刺は昔からあるジャンルだが、カテゴリー分けをしていたので、事実と混同されることは少なかったと思われる

・ネットでは風刺か本当かただのデマなのか、誤解されやすい

今回の件は「ジョークや風刺のつもりで書いたものを、本当だと受け取られた」という性格のように思える。 

 

風刺そのものが不要かどうかという話はまた別だ。風刺を書きたい人、読みたい人がいて、ネットではまたちょっと勝手が違うようねという話。

 

こういう風刺や皮肉はわかりにくいから、今後は消えていくのかもしれない。

でも何かに不満や違和感を持った時にストレートに言わずに、ちょっとひねった言い回しや表現をすることが絶えることもないと思う。それは人の営みだ。

ただのデマとして排除されて絶滅するのか、デマと混ざって生き延びるのか、単純に#風刺 #ジョーク などのタグ付けで定着しちゃうのか、それはよくわからない。

 

インターネット風刺の今後の活動にご期待ください。

 

※追記

自分も今回のような経験が小規模ながらあって、プロの人に結構変なこと言われたので

何か機会があったら書くかもしれない。未定。

 

*1:引退宣言を何度もすることによって「今度が最後!」と銘打って商売をするわけなので、安易な引退宣言と復帰については批判された方がよいと思う。プロレスラーには散見される。『風立ちぬ』で引退するときにも「どうせ復活するだろう」という意見はいくつも目にした。ただビジネスである以上、少しでも宣伝をうまくやりたいたいプロデューサーの気持ちはわかる。ジブリ展で自分の書道を披露したい人の気持ちはわからないが。 

見てくれ! オレの大博覧会!(小原篤のアニマゲ丼):朝日新聞デジタル

*2:引退商法もボージョレも「今回が最後」「今回が過去最高」と煽って、より利益を取ろうとすることへのやんわりとした批判だ。もっとも宮崎監督の発言は、記者会見以外のものを公的な宣言と捉えるのはちょっと難しいし、そんな言質を取ってもなあと思うし、ボージョレも毎年最高の出来を更新しているのかもしれないので、悪いと思うかどうかは各人にお任せしたい。それを意識的に使って商売をしようとしている人がいれば、それは宣伝の仕方がインチキだと思うが。

*3:風刺の飼い慣らしみたいなものだけど、そうしないとやはり読者からの抗議やマジレスが多いのだろう