『この世界の片隅に』インタビュー文字おこし(「荻上チキ・Session-22」10月27日放送分)

2017年10月28日、公式音声は残っているがおこし文が出なかったようなので再度公開。

【完全版:音声配信】『この世界の片隅に』の片渕須直監督インタビュー▼2016年10月27日(木)放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」平日22時〜)

 

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以下の文章はラジオ「荻上チキ・Session-22」で2016年10月27日(木)に放送された『この世界の片隅に』インタビューを文字に起こしたものです。

公式に完全版が後程上がると思われます。

 

www.tbsradio.jp

荻上チキ・Session-22 2016年10月27日(木)22:00~23:55(23:40~23:50頃)

 

南部 今夜のゲストは来月12日に公開予定のアニメーション『この世界の片隅に』の監督を務めた片渕素直さんです。
片渕 よろしくお願いします
荻上 よろしくお願いします。
南部 片渕さんは1960年大阪生まれで日本大学芸術学部在学中に宮崎駿監督のTVアニメ『名探偵ホームズ』で脚本演出助手を担当。その後『魔女の宅急便』などのスタッフを務めご自身の監督作として『名犬ラッシー』『BLACK LAGOON』『アリーテ姫』『マイマイ新子と千年の魔法』があります。
荻上 いよいよ来月12日に公開予定のこの世界の片隅ですけれども、こちらは元々こうの史代さんのマンガが原作ですけれども、こちらをアニメ化したいと思われたのは、きっかけは何だったんでしょう。
片渕 自分がもともと作りたいものは日常の生活の細かいところ。作ったご飯が美味しいとかいうことが、アニメーションで描くとよりいっそう魅力的に見えるような気がするんですよ。そういう事を描いた時に流れる時間みたいなものが、大事な感じがしてたんですけど。こうのさんの『この世界の片隅に』は、戦時中、何もないところで雑草取ってきてはそれを料理して美味しそうに作るとか、そういうことが描かれていて。これは是非映像にしたいなと思ったところです。
荻上 作品にマンガとして触れられたのは結構前の段階から、読まれていたんですか。
片渕 いや実はですね、多分その直前に読み始めて上巻の四分の三ぐらい読んだところで、これは映画にしましょうと言ってプロデューサーに進言したっていう。
南部 すごい!
荻上 おお。
片渕 それから慌てて後半全部読み切って、読みながら自分で泣いてしまったりとか。自分でも大変なことになってしまいました。
荻上 そしてマンガを読まれて映画化されるわけですけども今回はお金を集める方法としてクラウドファンディングという方法を使われましたよね。どうしてそういった手法を選ばれたんですか。
片渕 お金を集めるというのが目的の一つつではあるんですけども。アニメーションって多分こういうジャンルに踏み出してる印象がないと思うんですよ。多くは高校生の主人公が出てきて、青春ですよね。少年と少女が出会うっていうような話が多いと思うんですけど。
荻上 だいたいボーイミーツガールみたいな。
片渕 そうですよね。文学寄りなのかもしれないですけども、こういう風な作品も作られているということが、説得力として、例えば映画を作ることに賛同してもらいたいというか、スポンサーになる方に伝わるとよいかなと思ったんです。でも本当に観客がきちんと存在してるんだよという事を述べようと思うとなかなか数字として難しいわけです。例えば視聴率みたいな形で語れないから。
荻上 事前に観客の期待値を数字化して見せることができる方法だということですね。
片渕 可視化するというかね。
荻上 特に主人公のすず役にのんさんを抜擢しましたけれども、それはどういった経緯だったんですか。
片渕 主人公のすずさんという人は18歳でお嫁に行くんですよ。若い人なんですね。その若さというのが大事ですよね。主婦といってもティーンエージャーなのだから。なおかつすずさんというのは、とんでもなくユーモラスな人なんですよ。おっちょこちょいだし、すごくのどかだし。若い女優さんで自分のことをコメディエンヌだって、きちっと自覚を持ってらっしゃる方ってそんなにいるのかな。でものんちゃんは今まで「あまちゃん」をコメディだと思っていて、自分はコメディ出身だと思っている。これからもそうやって俳優として女優としてやっていくのだという、はっきりした自覚を持っているみたいだったんですね。
荻上 ええ、ええ。
片渕 なので彼女に助けていただくことが必要かなと思ったんですよ。
荻上 この作品は今まで監督は作ってこられた様々な作品との違いというのはどういう風にお感じですか。
片渕 実はずっとやってきたことが、自分の中で一貫しているような気がするんです。例えばアニメーションってひょっとしたら、見る人にとって、あなたはこれだけの価値があるんですよと語りかけることかもしれないなって思って。自己実現ってあるんだよって言ってたかもしれないんですよ。でもひょっとしてテレビを見ていたら、自己実現どころじゃなくて犯罪の被害者になってしまう人もいるし、犯罪者になってしまう人もいるわけですよね。自己実現には対岸に別の岸辺があってしまって。水の中で溺れているうちに、たまたましがみついた草が、対岸に生えてる人だっているかもしれない。
荻上 うん(頷く)。
片渕 そう思ったときに東南アジアの暗黒街に日本のサラリーマンが流れついてしまったっていう『BLACK LAGOON』という作品をやるのが自分の中で必然になっていったりしたわけなんですよ。今まで自己実現という事にものすごく重点を置いていたが故に、でも『BLACK LAGOON』を経験してみると、子供に対してやっぱり大人の世界では色々あるけどね。子供が頑張って、自分の将来とかを見ることが大事かなということを『マイマイ新子と千年の魔法』でやったんですよ。
荻上 ええ。
片渕 『マイマイ新子と千年の魔法』っていうのが、昭和30年の世界を描いたとしていたら、そこに登場する大人たちは昭和20年に何をしていたんだろうなということが『この世界の片隅に』になっていって作品として現れてゆく。自分の中ではひとつずつ紐解いていくというか、一連のものを紐解いていくみたいな気持ちで作ってたりするんです。
荻上 アニメ作品の中では色んな作品があって、ご自身の中では一貫性があるということなんですけども、他の監督にはその監督らしさというものがあったりしますよね。
片渕 はい。
荻上 そうした中で宮崎駿監督のところで一緒にアニメを作っていた時期があるということですけども。他の作品に触れるにつれて、自分の作品らしさみたいなものがよりクリアになってくるみたいな経緯は、これまでいろんな仕事をする中であったようなものなんでしょうか。
片渕 いちばん最初に宮崎さんとやった『名探偵ホームズ』僕らのスタッフとしては全うできてないんですよ。
荻上 全うできていない?
片渕 いろいろな経緯があって、君たちは他の映画を作りなさいと言われて、他の別のスタッフに全部引き渡したりとかしてるんですよ。
荻上 おお。
片渕 じゃあこういう映画を作りなさいっていうのは、『リトル・ニモ』といって日米合作のかなり超大作なんですけど、それも他の人に引き継がれていて。かなり色々な経緯があるんですけど、なかなか自分たちでひとつの仕事を全うできたってことがなかなかなくって。そういうことから自分自身の歩んできたところから、正直今までいろいろやってきたんですけども、自分でこれをやりたい企画して全うできた最初の作品が『この世界の片隅に』ですね。それが自分でも大事だなと思ってます。
荻上 そして実際に映像化されていよいよ来月公開ですけども、いろんな見方があると思うんですけども。戦争ものとして観る方もいれば、 声優に着目して、のんさんのファンだから見にこられるという方もいらっしゃるでしょうし。今年はアニメ映画の当たり年だみたいな仕方で、この作品は外しちゃいけないみたいな。
片渕 災害映画だという見方もあるんですよ。災害が起こったときに我々はどうなのか。実際には制作中に東日本大震災もありましたし、いろんなことが起こって、その時々で戦争中に空襲を受けた側。一方的に受けてしまった人にとっては「災害」なんだなと思って。災害なんだとしたら単純にそれは受けているだけじゃなくて、近隣の人って助けてくれるんですよ。
南部 はい。
片渕 呉が空襲に遭えば広島の人が助けるし、広島が空襲に遭えば呉の人が助けに行こうとするとかね。そういうことも実は東日本で(以下音声不良にて聞き取れず)

 

 

 

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